胃がんリスクが判定できるABC検診とは
ピロリ菌感染が、胃がんの危険因子であることは、数多くの基礎実験、臨床研究により実証されています。B型・C型肝炎ウイルスが肝臓がん、ヒトパピローマウイルスが子宮頸がんの危険因子であるのと同じように、ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)感染は胃がんの危険因子です。肝炎検診によって、肝がんのリスクである肝炎が発見され、インターフェロン治療で肝がんの予防が可能になりました。また、子宮頸がんも検診による早期発見だけでなく、ワクチンで予防されるようになりました。「ABC検診」とは、胃がんの原因とされるこのピロリ菌感染の有無と感染によりダメージを受けた胃粘膜の程度を血液検査で調べるものです。胃がんの危険因子であるピロリ菌と胃炎の程度を組み合わせることにより、胃がんのリスクがわかります。
では血液検査では、どのようなものを調べるのでしょう。
血液検査でわかる「胃の健康度」と「ピロリ菌感染」
血液検査だけで「胃の健康度」と「ピロリ菌感染」がわかります!
そして、胃粘膜の萎縮の程度を、ペプシノゲン検査で調べます。ペプシノゲンとは胃から出る消化酵素のもとです。ピロリ菌に感染すると、胃粘膜に炎症を起こし胃粘膜が弱って(萎縮して)、慢性萎縮性胃炎となります。こうなると胃から出ることができる消化酵素は減ってしまうので、ペプシノゲンも減少します。ペプシノゲンの出が悪いということは、胃が弱っているということです。このように、ペプシノゲン検査では、「胃の健康度」がわかります。ペプシノゲンは、一部血液中に流れ出るので、血液検査で測定が可能です。
少し専門的な話になりますが、正確には、ペプシノゲンは、IとIIの二種類があります。ペプシノゲンIは主に胃の胃酸を分泌する領域(胃底腺領域)から分泌され、IIは胃全体から分泌されます。分泌される範囲が異なるため、両方の値をみることで胃の状態が推測できます。ピロリ菌に感染して胃粘膜が萎縮していくと、胃酸を分泌する胃底腺領域が減少していくので、ペプシノゲンIが低下していきます。結果的に、ペプシノゲン比率のI/II比が低下します。詳しい検診の結果には、ペプシノゲンI/II比の低下と書いてあります。ペプシノゲンI/II比の低下があれば、ペプシノゲン検査の結果は陽性となります。
余談ですが、ペプシノゲンが変化してできる消化酵素はペプシンです。ペプシンと聞いて何か思いつきませんか? そう、ペプシコーラです。ペプシコーラは当初、消化不良の治療薬として売り出され、消化酵素のペプシンが含まれていました。ペプシンにちなんでペプシコーラと名付けられたそうです。
胃がんリスクを判定する「ピロリ菌」と「ペプシノゲン値」
この「ピロリ菌抗体検査」と「ペプシノゲン検査」、リスクにあわせて次のようにABCDと分類します。A<B<C<Dとリスクが高くなっていきます。Aタイプ:健康な胃粘膜です。胃がんになる危険性は低いと思われます。
Bタイプ:ピロリ菌に感染しています。少し弱った胃粘膜です。一度、詳しい胃の検査を受けましょう。3年以内の間隔で定期的に胃の内視鏡検査を受けましょう。ピロリ菌は除菌しましょう。
Cタイプ:弱った胃粘膜です。ピロリ菌感染により、慢性萎縮性胃炎の状態と思われます。胃がんを発症するリスクが高いので、可能なら年に一度は胃の内視鏡検査を受けましょう。ピロリ菌は除菌しましょう。
Dタイプ:かなり弱った胃粘膜です。慢性萎縮性胃炎の状態で、ピロリ菌も生存できないぐらい胃が弱っている可能性があります。Cタイプと同様、胃がんを発症するリスクが高いので、毎年、胃の内視鏡検査を受けましょう。
ピロリ菌除菌後の方は、Eタイプ(除菌群)として、年に一度、定期的に内視鏡検査を受けることを推奨しています。というのは、ピロリ菌に長年感染していると、がんのリスクである慢性萎縮性胃炎になっていることが多いからです。
毎年、健康診断でたくさんの方の内視鏡検査を行います。その中に、そう多くはありませんが、胃がんが見つかります。健康診断で発見された場合は、早期胃がんであることが多く、総じて患者さんの負担も少なくて済みます。
最近は、鼻からできる内視鏡の精度が向上したり、鎮静剤を使用して内視鏡検査ができたりと、以前に比べ患者さんの負担はだいぶ少なくなりました。しかし、まだ、内視鏡検査に対して、不安を感じている患者さんは少なくはないようです。胃がんのリスクに合わせて内視鏡検査を受けることで、患者さんの負担は減ると思います。
胃がんのリスクに合わせて検査を受けましょう。ピロリ菌は除菌することで、胃がんの発生を3分の1に減らせる可能性があります。
不明な点があれば近くの医療機関に問い合わせましょう。